A・・・・・家庭教師
B・・・・・生徒
A「心理テストって知ってます?」
B「どうしたのさ、急に」
A「いえ、話題は変わるんですが。巷では心理テストが流行っているらしいですね」
B「うん、変わってないね。何? やりたいの?」
A「はい」
B「食い気味」
A「勉強ばかりしてても、飽きませんか?」
B「それ教える側のセリフじゃないね」
A「……」
B「へえ、アンタにも心ってあったんだ」
A「失礼な。僕は試す側だから、心が無くてもできますよ」
B「そういうとこですよ、先生。心がないことは否定しないんだね」
A「正直者は天国に行けるらしいですよ?」
B「正直からの地獄直行便」
A「往復割引あります」
B「ありませんよ」
A「それでは質問です」
B「結局やるんですね。まあ、いいですけど」
A「あなたは崖の前にいます」
B「崖? どんな高さ? 落ちたら死ぬ奴?」
A「細かいですね。そうですね。落ちたらもれなくハンバーグになると考えていただいて結構です」
B「誰がそこまで言えって言った」
A「あ、まだ焼いてないから挽肉でしたね」
B「そうじゃなくてね」
A「崖にふたりの少女が掴まっています。今にも落ちそうです。ひとりしか助けることはできません」
B「あー、どっちを助けるかってやつ?」
A「優秀ですね。さては、いい先生に習ってますね?」
B「先生を突き落とします」
A「ははは、うっかりさんですね。僕は設問にいませんよ」
B「はい、僕の先生は死んだのでもういません」
A「あれ? 息抜きすぎて、記憶まで抜けました? ……こほん、では質問の続きです。片方はロングヘアの少女、もう一方はショートヘアの少女です。どちらを助けますか?」
B「なんなのこれ。えー、じゃあショートヘアで」
A「ほほう。ではまた同じシチュエーションです。片方は胸がたわわ、もう一方はこれからの発育に期待といったところ。どちらを助けますか」
B「なんでちょっと溜めたんですか。まあ、小さいほうですかね」
A「なるほどなるほど」
B「ねえ、これで何がわかるの」
A「君の女性の好みですね。君のバイト先のレジのあの子から、探ってくるように頼まれました」
B「先生には心がないの」
A「あ、もちろん報酬は前払いでいただいていますよ」
B「心捨てたん? そもそもさっきの答えは、軽そうだと思ったほうを答えただけだし」
A「髪の毛ってそんなに重さに差はないでしょう?」
B「だって、俺非力だし。最近は、箸が重い」
A「え-、運動しましょうよ。もし、さっきのシチュエーションになったとき、助けられないじゃないですか」
B「そのときは素直に二人とも落ちる」
A「そんな……、はっ。つまり、君が落ちたのは崖下ではなく、恋だったということですね」
B「先生黙って」
A「冷たい。君には人の心がないんですか」
B「先生黙って。じゃあ、逆に聞くけど、暴走している電車があります。今のままだと線路の先にいる五人の若い作業員が死にますが、レバーを変えれば線路が切り替わって、ひとりの老人が死にますって話」
A「トロッコ問題ですね。有名です」
B「あ、知ってたんだ。先生はどうする? やっぱり心がないから、速攻でレバー変えるんでしょ」
A「失敬な。僕にだって心はありますよ」
B「じゃあどうするの?」
A「運転手を殺します」
B「は?」
A「電車を暴走させた罪があるし、電車も止まって誰も死にません」
B「もうアンタ黙って勉強だけ教えてれば?」