A・・・・(組織のトップ)
B・・・・(組織人員)
(場面設定)
Aは当該施設のトップ。Bはその組織人員であり、今回駆け込み訴えをしている。
A「何度来ても同じことだ、できないよ」
B「お願いします。今、病院では多くの患者が苦しんでいます」
A「患者が苦しんでいるのは、君たちの看護不足が原因なのではないかね? ここに来る時間があったら、一分一秒でも治療に当てたらどうだ?」
B「現在の物資では限界があるのです。どうか、物資の補給をお願いします」
A「そんなことを言っても、ないものはないからねえ」
B「お聞きしたところによると、つい今朝、補給部隊がここを訪れていたそうですね」
A「それが何か?」
B「西棟の倉庫に厳重に鍵が掛かっていました。そして、今そこに木箱があります。昨日まではありませんでした」
A「だからどうしたというんだね」
B「(くんくん)、木箱からかすかに消毒液のにおいがします。所長、それは医療物資なのではありませんか?」
A「……はあ。いいかね婦長どの。私はどうしても仕事が欲しいというからお前たちに医療に従事することを任せている。それをなんだ。たいした死亡率改善にもつなげられず、あまつさえ仕事がはかどらないのは、薬が足りないからだ? 笑わせないでくれたまえ」
B「所長。現場には薬を必要としている患者がいます」
A「ならば、君がいるべきはここではなく、その患者のそばだろう」
B「そしてその患者には薬が必要です」
A「渡せるものがあれば渡すんだかねえ」
B「そこにあるではありませんか」
A「これは開けられないんだよ。決まりでねえ。委員会の決定が下りなければ開けられないんだ」
B「その委員会はいつですか」
A「そうだな、三週間後かな?」
B「そうですか。それでは、……(手斧を持つ)」
A「おい、何をする気だ。斧なんか持って。待て、まさか私を、おい、誰か! 誰かいないか!」
B「(木箱に振り下ろす)。これで開きましたね。持っていきます」
A「貴様、ふざけるなよ。私を舐めるのも大概にしたまえ」
B「開けられないから渡せない。今、木箱は不慮の事故で開いた。だから持っていく。違いますか?」
A「そんな理屈が通るとでも」
B「では、所長もベッドの上に来ますか? そこでも同じことが言えると?」
A「ぐ、持っていきたまえ」
B「それでは失礼します」
言わずと知れたかのナイチンゲールの有名なひと場面を台本化したもの。キャラクターとしては、斧を持たれた瞬間すぐに自分のことだと思い込む、誰かに助けを求めるというところで所長のほうのキャラクターを立てたものになる。嫌がらせをしたいだけの人間くささをどう表現するか。
・所長は婦長のほうが人望を勝ち得ていることが面白くない
・所長は婦長に恋をしている。
・所長は婦長に好き勝手させないようさらに上部から圧力がかかっている
・婦長は危篤の患者を抱えており、本日薬を手に入れないと患者が死ぬ
・婦長は所長への直談判をすでに数度行っており、所長に対して苛立ちを覚えている
・婦長は所長を哀れんでいる
・婦長は患者のことなどどうでもよく、苦しむ所長を見て嗜虐心による興奮を覚えている