A・・・・(値切る側)
B・・・・(値切られる側)
(場面設定)
Aの構える商店にて。店舗形態は集合商業施設でも個人商店でも露店でも構わない。
A「こんなところにお店があっただなんて」
B「いらっしゃい。別嬪さんのお客とは、嬉しい限りですね。どうぞゆっくり見ていってください」
A「ふーん。まあ、素敵な鏡ね。うん、とっても造りが丁寧だわ」
B「お目が高いですね。それは大陸でも指折りの職人が手がけた一点物になります」
A「一点物。おいくらかしら?」
B「そうですね、ちょっとお手を拝借」
A「え、こう?」
B「違う違う、そうそう指を十本とも広げて前に出して、はい、それにゼロを四つくっつけてください」
A「は?」
B「お代金はそちらになります」
A「はああ? どうしてこんな小さな鏡がそんなにするのよ。いや確かに凝った飾りだけど」
B「一点物ですんで」
A「さっき聞いたわ。高い。高すぎる」
B「まあ、ご納得いただけないのなら、アンタとこの鏡は縁がなかったというだけの話で」
A「待って待ちなさい。でも実際この鏡がすばらしいのは事実。なんとまからないかしら?」
B「なりませんね」
A「服を脱ぐわ」
B「はい?」
A「その鏡に負けず劣らずの見た目をしていると思うの私」
B「自分で言いますか」
A「そんな私の裸、こっちも一点物よ。なかなかそうは拝めないと思うのだけれど」
B「拝むだけってなら、そちらもどうぞ鏡を好きなだけ拝んでください。なかなか拝めない一点物が映ると思いますよ」
A「どうしてそう意地悪なの」
B「こっちも商売ですんで」
A「じゃあいいわ、裸のまま通りに出てこの店の悪口を言ってやる」
B「なるほどそれだ」
A「え? 半分冗談のつもりで言ったんだけど、まさか本気にしたの?」
B「悪評は勘弁願いたいが、アンタがこの店に客をひとり連れてくるたびに、指一本分負けましょう。どうですか」
A「言ったわね。後悔するわよ」
B「そこのところは、一点物に期待しましょうか」
「この店は人目につかないところにある」→「だから客寄せは店主にとってメリットとなる」という構造である以上、前提であるAの第一声の台詞をしっかりと情報として印象づけることが重要。Aは「鏡に見惚れる」「値段に驚く」「裸の決心をする」「宣戦布告」という感情の変化をつけやすい構成。Bはところどころ崩れる敬語の中にどのような感情を混ぜるかというのが遊びどころ。繰り返しでる「一点物」というフレーズをどう遊ぶかもポイントとなる。
・女は鏡などどうでもよく、自分の価値を試したい
・女は男が目当て。なんとか籠絡したい
・男は女が冷やかしである(近隣で有名)ことを知っている
・男は鏡の価値をふっかけている
・鏡は本来売り物ではなく、男の以前の恋仲の者の形見である