A・・・・(猫を拾いたい子供)
B・・・・(猫を飼わせたくない母)
(場面設定)
これから離婚した夫に子供を会わせにいく道中で、捨て猫を発見した親子の話
A「ねえ、お母さん、あれ」
B「なあに? ……捨て猫ね。まったく、責任を負えないのならペットなんて飼うべきじゃないわ」
A「ねえ、お母さん」
B「だめよ」
A「まだ何も言ってないのに」
B「どうせ『飼いたい』だとか言うんでしょう」
A「い、言わないよ。ただちょっと、見るだけ。見るだけだから」
B「見るだけって言ったって。わかった。見るだけなのね?」
A「うん」
B「3分よ。それ以上は待てないわ。遅れたらあの人に文句言われちゃう」
A「パパ、やさしいよ?」
B「あなたにはね。あと2分」
A「えっ、ちょっとタイム! タイム!」
B「残念ね。人間には時間は戻せないのよ」
A「もー。えへへ……、おまえ、かわいいねえ。かわいいのにねえ。どうして捨てられちゃったんだろうねえ」
B「あと1分」
A「ええっ! ママ、ぜったい早いよ!」
B「早くないわ。ママはいつだって正確よ」
A「ママ、そんなんだからパパと――」
B「なに?」
A「あ、えと……、なんでもない」
B「そ。じゃあ行くわよ。ネコちゃんにお別れを言いなさい」
A「やだ……」
B「なんですって?」
A「ママ! あの猫、ウチで飼おうよ」
B「言うと思った」
A「ねえ、いいでしょ?」
B「あのねえ、タダじゃないのよ。エサ代だって、予防注射だとかもしないといけないし。飽きたら捨てるなんてこともできないのよ」
A「捨てないよ。この子をひとりぼっちになんかさせないもん」
B「口ではなんとでも言えるわ。言うのと実際にやるのじゃ違うのよ」
A「やるもん」
B「その根拠は?」
A「こんきょ……」
B「ほら、難しいでしょ」
A「難しいけど、ひとりぼっちがかわいそうなのは知ってるもん」
B「……」
A「このままここに置いていったらかわいそうだよ」
B「そう。そんなに言うなら好きにしなさい」
A「え、いいの」
B「ええ、ママは面倒見ないからね。あなたが面倒見るのよ」
A「うん。えへへ、今日から家族だぞー、おまえ」
B「家族、ね」
母親が子供に向かって言う台詞は、すべて母親自身に返ってきている。また、父親と引き離したことで子供がさびしい思いをしているということに気づかされる台本でもある。母親が後悔を知る話として捉えるか、子供が母親のあの日の決断に否(いな)を突きつける話と捉えるかによっても台本の色が変わる。(どちらを主人公にするか)
・母親は本当は父親と別れたくなかった(捨てたのではなく捨てられた側)
・母親は父親を見限った(捨てた側、父親に問題がある)
・母親は猫アレルギー
・子供はわかった上で猫を使って母親に陳述している
・子供は父親に猫を見せたい
・子供は母親のことが嫌い
・子供は母親のために猫を飼いたい(母親が寂しがっていると思っている)