A「供物がしょっぱい」
B「は? 急にどうした」
A「お主、最近なんか供物が等閑(なおざり)じゃないかの?」
B「え、好きって言ってたんじゃんそれ」
A「確かにのー、確かにのー、天文堂のどら焼きは至高なんじゃが、さすがにこう毎回となるとありがたみも薄れるというか」
B「ありがたみが薄れる? 何、自分の話?」
A「いや、この土地に根付いてから早400年。そんな突然自虐には走らんが、何? お主、儂のことありがたみ薄いって思ってんの?」
B「薄かったら、こんなお堂の掃除に週一で来ないよ」
A「昔はかわいかったのにのー。三日と空けずに来てくれていたのはいつまでだったかの」
B「そんな十年近く前のことを言われても」
A「儂にとっちゃ一瞬よ」
B「あ、来月から月一になるかも」
A「何! どうしてじゃ。そうやって少しずつ頻度を下げて最終的には来ないつもりじゃろ。そうじゃろ」
B「違うよ。そろそろ受験勉強も忙しくなるし、今までの頻度で来るのは厳しいんだよ」
A「儂に祈ればよかろう」
B「大事なところは神頼みしたくないんだ」
A「うわー、儂の存在意義を正面から否定しよった、此奴。よくもそんな残酷なことができるものだ」
B「それに学問だったら隣町に天満宮あるし」
A「そんな大手の名前を出されたらほとんどの神は勝てんわ」
B「大手って。俺の他にもお堂の世話してくれる人を見つけなよ」
A「おったんじゃが、トヨ子の奴は先月死んだしの」
B「嘘。見ないと思ったらトヨばあちゃん死んだの」
A「おうよ。律儀にも昇天前に儂に挨拶しにきよった。まあ、器量のいい女だったから、浄土でもうまくやれるじゃろ」
B「そっか」
A「お主も何か起きる前に」
B「やめてよ縁起でも無い」
A「そろそろ儂に願い事の一つでもせんか」
B「お願い事は言ったら叶わないって言うでしょ?」
A「それは人にじゃろ。願う相手にまで秘匿してどうする」
B「でも言わない」
A「願いもせんくせにこうも甲斐甲斐しく世話されると、それはそれで不気味なんじゃが」
B「何? 自分の」
A「じゃから、この歳で自虐には走らんわ」
本来、荘厳であるべき神が砕けたしゃべりをすることに面白みを持たせている。また、願い事を言わず甲斐甲斐しくお堂の世話をしている理由が何であるかによって、台本の顔は大きく変わるだろう。