(場面設定)
食堂のおばちゃんによる喜怒哀楽
「あら、早いわねえ。まだチャイム鳴り終わったばっかりよ。おなか減ってたの? 今日はねえ、新じゃがが出てたから、おばちゃん張り切って、全部マッシュしたわよお。ポテサラコロッケ。食べたことある? マヨと揚げの油油コンボはすごいわよー。おばちゃんのそのせいで、このおなか。なあんて、君たちは若いんだからいくらでも入るか。どうする? 二個? 四個?」
生徒がチャイムと同時に食堂に駆け込んでくる=食事が楽しみ であり、食堂の主としては喜ばしいことである。「おなか減ってたの?」という台詞を照れとして配置したが、呆れや引き、深刻等にしてもまた色が変わるか。マヨ、揚げ、油、油 という列挙をうまく音声情報のみで伝えるのが今回の腕試しポイント。わよー、という連続する語尾の使い分けや、ポテサラコロッケ、このおなか、の体言止めの使い分けもうまくやりたい。
「はいお粗末さまー。ん? あらぁ、どうしたの? え、ごちそうさま? 待たんかい! まだ皿の上に残っとるでしょうが。米粒! 農家の人の汗の一滴、血の結晶――だとしても、このあたしが! 朝一番の寒い時間から、かじかむ手でしゃかしゃかしゃかしゃか研いだお米を、みんなが午後も授業がんばれるようにねえ、ってふっくる炊いたご飯でしょうが! スプーンがうまく使えないなら、舐めとってでも食べ切りな。やり直し!」
冒頭の「はい、お粗末さま」は返却口に来た別の生徒(遠くに投げかける)。対して、近くで「ごちそうさま」を受けて、去りゆく背中に「待たんかい!」。距離感の切換も意識したい台本。オノマトペをふんだんに置いたので演技しやすい仕上がりになっている。「しゃか」はあえての4回。(当者比)。皿がカレーなのか、チャーハンなのか、しっかり設定を自分の中に持ちたいところ。冒頭に別生徒への対応を出すことで、後半の怒りとの対比を出しやすくしたが、あえて同一生徒に対して言うのもいいだろう。
「あらぁ、ごめんなさいねえ。カツサンド。さっき売れたのよお。コロッケサンドじゃ……駄目よねえ。そうよねえ、朝練もあったならがっつりしたの食べたいわよねえ。タマゴサンドは……アレルギーよねえ。そうよねえ、前言ってたものねえ。ごめんなさいねえ、あとはえーとごそごそ……ハムサンド。薄いわよねえ。え、これでいい? ありがとうねえ、120円です」
おばちゃんは無力に嘆いている。商品名を提案→お眼鏡にかなわない というのを何回も繰り返すことにより、おばちゃんは無力に苛まれる。そして最後は救われ、きっちり商売人として金額を告げるのだった。という構成。悲しみの感情の台本のはずだが、ギャグ台本としても成立する。そして生徒のアレルギーを知っている=深い付き合い というて点をしっかり読み取ることができたかがポイント。口でごそごそと言うくだりは場合によっては省いてもよい。
「来たわね。今日、すごいわよ。おばちゃんのおばあさんが、駐屯してた海軍だったおじいさんの胃袋を掴んでそのまま結婚までこぎつけた和風ボルシチのレシピを入手しました拍手! というわけでそちら再現した限定五食だけのハートキャッチボルシチ略してハキャシチ定食。はっ。だめよ! これを食べたからっておばちゃんのこと好きになっちゃ、あ、B定職? はーい」
だから売れねえんだよ!(ハキャシチ定職のことです。おばちゃんではありません)
あえて略語はとにかく発話しづらいものにしたのが今回のチャレンジ要素。言いづらすぎるなら(ハキャボチ定職)に変えてみるとよいかと。声をひそめたくせに拍手を求めたり、話を持ちかけたのにいつもの定職が売れる点がミソ。