「ただいま~、って誰も返事するわけないか。へへっ、今日も一日疲れましたよーっと。なんでこの世から月曜日ってなくならないんだろうね。うわっ。あちゃー、朝洗濯機回してそのままにしちゃってた。(くんくん)くっさぁ。はあ、仕方ないこのままもっかい洗濯機回すか。ご近所迷惑はお互い様だよね? いいや押しちゃえ。スイッチオン」
帰宅して、服を脱いで洗濯機を確認したら朝回したあと洗濯物を干すことを忘れてしまっていた台本。最初の「へへっ」の笑い方をどう作るかでこのキャラのコンディションが決まる。(上機嫌や酩酊や疲労や自虐等)。ご近所迷惑はー(ここで隣の壁ないし床下や天井を見る)お互い様だよね(言い訳)という台詞の構造。「いいや押しちゃえ」という台詞は「自分を許す(許容する)」という隠喩になっている。
「この豚肉はそろそろ使い切らなきゃいけないからなんかテキトーに炒めるとしまして、うーんどうして大葉を切らしていたんだ過去のあたし。今日は暑いしさっぱり系でいきたい気分なんだけどなあ。何か代用できるもの代用できるもの。ポン酢……? まあ、カレーとめんつゆは万物に合うっていうし、ポン酢も親戚みたいなモンでしょ。多分いけるいける。ええいいったれ。投入!」
キャラのテキトーさを出す台本。途中で冷蔵庫を物色する視線の動きをうまく台本に載せたいところ。ポン酢を発見して以降の台詞はすべて言い訳タイム。勢いが大事!(と自分に言い聞かせている)。いくらポン酢の瓶を持って逡巡してもよい。
「くぅぅぅ! ビールを発明した人は偉大だわ。大概のモノはビールに合う。世の中うまくできてるわあ。この一杯のために働いているといっても過言じゃないわよねえ。本当は渋い大将が目の前で焼き鳥を焼いてくれる炭火焼き屋さんに行きたいんだけど。『ほら、鶏皮がパリパリに焼けたよ』なんて、はああ。決めた。来週のお給料日は焼き鳥屋開拓だー」
晩酌をしている台本。どこの部分でもぐもぐしているのか。今あるおつまみは焼き鳥と比べてどうなのか。今何杯目のお酒を飲んでいるのか、ちゃんと考えて演技したい。最初の一杯キメたあとの「くぅぅぅ!」(一気飲みした? それとも半分くらい? 一本空いたなら2本目を開ける?)と途中の対象の妄想、あとは渋い大将がタイプであるところにキャラ性を持たせている。飲む、食べる、妄想、よだれ、決意表明等、感情が忙しい台本。
「もうこんな時間。寝て起きたら会社かあ。はあ、また部長にちくちく嫌味言われるんだろうなあ。明日は雨だから移動販売のパン屋さんも来ないだろうし。あれ、あたし明日何しに会社行くの? いやだあ。会社行きたくない。ウチの会社に隕石でも落ちないかなあ。隕石が一撃、隕石が二撃、隕石か三撃、隕石が……(ぐぅ)」
布団の中で寝落ちする台本。寝落ちの表現も大事だが「そうだ羊の代わりに隕石を数えたらよくね?」と世紀の発想に至ったのがどの瞬間かちゃんと押さえておきたいところ。部長の嫌味&お気に入りのパン屋が来ない(絶望)→隕石降らせばよくね?(希望)と、対比で見せている。これが彼女の処世術。