「検査の結果が出ました。あなたの症状ですが、どうしました? そんなに怯えなくても、大丈夫ですよ。三人に一人は発症する症例ですので、何も心配はいりません。安心してください。必ず快方に向かいますから。きちんと治していきましょう。大丈夫ですよ」
穏やかな医師として優しく宥めるもよし、実はもう重い症例なので患者が助からない設定として、医師が自分自身に言い聞かせるでもよし。対象(患者、または自分自身)に対して「落ち着かせること」が目的の台本。間や反応をうまく使い、宥められる側の演出をしたいところ。
「こんにちは、お久しぶりですね。そうですか、指の調子はよくなったんですね。ちょっと見させてもらいますね。ふむ。今日来ていただいたのは、先週の検査の結果なのですが、え? そうですね。来月でしたね、ピアノのコンクール。チアキちゃん。ピアノは諦めてください。すみません。君の指はもうピアノを弾くのには、耐えられないんです。
医師に対して「調子がよくなった」「来月のコンクール」と、患者側が「大丈夫ですよ」の回答を引き出したがっているのに対し、非情な結果を伝えなければならない医師の台本。医師に落ち度はないが「すみません」という台詞を宣告直後に配置している。それをどう使うがポイント。
「手術が成功する見込みはたったの五パーセントしかありませんが、もしあなたが私を信じてくださるのならば、必ず私が成功させます。本来なら医者が『必ず』なんて言葉を使ってはいけないのですが、必ずです。必ずあなたを助けてみせます。どうか私にあなたを助けさせてください。お願いします」
「必ず」という言葉には安心と不安が混濁している。そのワードをどう使うかという点と、最後は直球の台詞を並べたので、どこまで熱量を込めるかの台本。冒頭と中盤に「ありませんが」「いけないのですが」と、否定の形を持ってきているため緩急をつけやすいようにしている。
「検査の結果ですけど、えーと、カルテはどこにおいたかな。あったあった、うわ字ぃ汚な……えーと、うん。はい、検査の結果ですけども、至って健康体です。お仕事復帰されて結構ですよ。え? 大丈夫ですよ。ちゃんと確認してますから。院長に代われ? ああ、それならご安心ください。私が院長です」