「伝説」(ナレーション)


ふたつの国

「はるか昔、この世界はふたつに分かれていた。日の光が降り注ぐ太陽の国と、暗黒に閉ざされた月の国。あるとき、月の国の住人は、太陽の国へ戦争を仕掛けた。お前達ばかりが輝しく生きるのはおかしい、と。しかし、月の国の住人には、太陽は眩しすぎた。太陽の国に一歩足を踏み入れた者たちは次々と蒸発してしまった。太陽の国の住人が焼き付けるような光に耐え続けていたことを、影の国の住人は知らなかったのだ。以来、太陽の国の住人は、人の減った月の国に移り住み、この地上から生命が消えた」

狙い

神話や創世記といった内容。冒頭での語りとするか、物語途中での語りとするかでしゃべり方が変わる。


魔法

「かつて、人は空を飛び、火を自在に操り、氷や水を手のひらから出すこともできていた。世界にマナは満ちていて、魔法が人々の暮らしに寄り添っていた。あの魔術戦争までは。国と国が魔術を以て、百日に渡る戦争を行った。戦況は苛烈を極め、封じられていた古の魔法ですら、戦争の道具となった。その結果、世界からマナが枯れ果て、人々は空も知らぬ、火も起こせぬ、水を氷としてとどめる術すら知らぬ、脆弱な生き物となった。一部を除いては」

狙い

最後の一文をどう読むかがポイント。またこの原稿を魔法使いサイドとして読むか、人間サイドとして読むかによって、色が変わる。


ドラゴン

「四体の竜がこの大空を支配していた。一番身体の大きな竜は北の空を、灼熱を吐く竜は西の空を、翼の多い竜は南の空を、そして、一番弱いが心のやさしい竜は東の空を。四体は、自分の空を守り続けていた。どの竜からも見捨てられた中の空だけは違った。空は陰り、何者も飛ばない。生き物は、醜く大地を這いずり回っては、空を見上げていた。それが、人間であった」

 

狙い

竜を四つ並べた並列の構造。飽きさせることなく読むことができるかがカギ。竜の壮大な話→人間の矮小な話というギャップをつけた台本になっている。


ドラゴン(丁寧ver)

「四体の竜がこの大空を支配していました。一番身体の大きな竜は北の空を、灼熱を吐く竜は西の空を、翼の多い竜は南の空を、そして、一番弱いが心のやさしい竜は東の空を。四体は、自分の空を守り続けていました。けれど、どの竜からも見捨てられた中の空だけは違いました。空は陰り、何者も飛びません。そこで暮らす生き物たちは、その足で大地を駆けずりながら、羨ましそうに空を見上げていました。力のない生き物――人間です」

 


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