A・・・・(男:選択を迫られている)
B・・・・(女:強気に選択を迫っている)
C・・・・(女:引き身で選択を迫っている)
A「どうしたんですか、お二人お揃いで」
B「別にお揃いではないですけれど。ねえ、私この人に用があるの。よかったらそのまま通り過ぎてくださるかしら?」
C「私のほうが先に居ましたけどね」
B「何かおっしゃいました?」
C「いえ。わたしよりも大事な用事があるんじゃないですか?」
B「そうだった。これを見なさい」
A「なんですか、この目に優しくないギンギラした色の袋は」
B「ゴージャスなのは外側だけじゃありませんよ。中身だってほら。泣いて喜んでいいんですよ」
A「なんですか、これ? 茶色いヒキガエル?」
B「チョコレートです。キティーキャットの。かわいらしい仔猫のチョコレートでしょう。どこからどう見ても」
C「後ろから見るとガリガリに痩せたメガネザルにしか」
B「何か言いまして?」
C「いいえ。そちら、作られたんですか?」
B「ええ。ええ、そうよ。この私が手ずから作りました。三日三晩をかけて丁寧に湯煎してそれから七日をかけてゆっくりと固めました」
A「秘伝の豚骨スープみたいな」
C「先輩はラーメンのほうがお好きですか?」
B「とん……なんですって?」
A「いえ、それだけ手間暇がかかってすごいなあって」
B「そうでしょうそうでしょう。さ、受け取りなさい」
A「ああ、ところで君はなんの用事だったのかな?」
C「はい、先輩。チョコレートをどうぞ」
B「なんですって。私が今、目の前で何をしているかわかっての狼藉?」
C「ああ、おかまいなく」
B「かまうわよ。どんな神経してたらチョコを渡している人の前でチョコを、ってそれは」
A「うわあ、すごいね。スフィンクスのチョコなんて初めて見たよ」
B「ぷっ。言われてますわよ。どこからどう見ても土佐犬の」
C「はいスフィンクスです。さすが先輩。エジプトにもお詳しいんですか」
A「そんな、たまたまだよ」
B「嘘おっしゃい、顔は仕方なしとしてもネコ科の身体をしてませんわよ。百歩譲って人面犬でしょうが」
C「ボーダーコリーですよ失礼な。先輩、今度期末テストの勉強を見てくださるって約束だったので、おやつに作ってきちゃいました」
A「そういえばそんな約束だったね。あ、でも僕今日は部活が」
C「じゃあ、部活前のおやつにしてください。また作ってきますから」
B「お待ちなさい。この世は年功序列、先着様順、今日は私のほうのチョコレートに決まっているでしょう?」
C「でも先輩ネコアレルギーなので」
B「ネコ毛なんて入れてませんわよ」
A「すみません。くしゃみが止まらなくなるので」
B「だからチョコレートだって言ってるでしょうが」
C「では先輩わたしのを」
A「うーん、でもお二人ともせっかくそんな立派なものを作ってくれたから、むしゃむしゃと食べるのも忍びないし。ん?」
B「じゃあ自室に飾ればいいでしょう」
C「昨日編んできたミサンガがあるので、紐を通してキーホルダーにしましょうか」
B「さあ」
C「さあ」
CB「どっちのを受け取るんですか」
A「落ち着いてください。二人とも。いいですかゆっくりと手を開いてください」
CB「あ」
A「今、8月です」
CB「せっかく作ったチョコが」
SE:蝉の声
女子二人の対比を見せる構成。
Aは実は「チョコレートの譲渡(要る、要らない)」という点に一切言及していないのがポイント。結局、最後の「今、8月です」に乗せる感情でチョコが欲しかったのか、それとも欲しくなかったが結論づく&オチの台詞なので、そこまでどう持って行くかというところだが、道中の台詞は主に接着剤的な潤滑剤的な台詞となっているため台本に緩急をうまくつける大事な役割をこなしつつ、演技の色を出していきたいところ。「〜食べるのも忍びない。ん?」の「ん?」でチョコレートが溶けかかっていることに気づく。舞台装置としてこれだけはしっかり聴衆に印象づけたい。
Bは強気だったり育ちのよさそうな感じを出しているが、Cに手玉に取られているというところにキャラの特徴がある。年長というところもあって、「〜狼藉」の台詞のように緊張を感を出す役割がある。それはそれとしてその他の台詞は突っ込み台詞が多いためうまくギャップで見せる必要がある。
Cは腹黒いなあ、と思いました。……対Aと対Cでの距離感や態度の棲み分け、同じ台詞内でも対象の切り替えがあったり、難易度とやり応えはままあると思います。やってて楽しいだろうなと思うので、是非楽しんでください。ちょっと挑戦的な台詞として「先輩はラーメンのほうがお好きですか?」の台詞をAに言っているのかBに言っているのかを聴衆にわからせる技量がちゃんとあるかどうか。どっち相手にしても成立させようはあるのであえてのそのまま残してます。ミサンガ(B案)まで用意している女が引き身かどうかは知りません。
CBはチョコが手の内で溶けかかっても気づかないほど熱(力)が入っている→手がチョコでベトベトになっている不快感という「動き(というか五感)」をうまく演技に利用したい。
・Aはチョコレートが欲しい(とてもおいしいので)
・Aはチョコレートが両方とも欲しい(裏で換金や賭けなどで金銭を得ることができるので)
・Aはチョコレートを回避したい(不味いので)
・Aはチョコレートを回避したい(アレルギーなので死活問題)
・Bは実はチョコレートを手作りしていない(後ろめたさ)
・Bが狙っているのはCのチョコで、Cのチョコを入手するためにAにチョコレートを押しつけている
・Bは製菓専門学校への進路を人知れず検討している
・Bのチョコレートは毒薬入り
・Cの狙いはAとBを引き離すこと
・Cのチョコレートは媚薬入り
・Cはあまり人から認識されることがないため、自己顕示欲としてAへチョコを渡した事実の作成やミサンガを着用させたい
・「ええ。ええ、そうよ〜」の長尺台詞に被せる形で、続くAとCの台詞をつなげる。その場合尺に合わせてBの語りをアドリブで長くしてもよい。