「戯曲口上型」

シェイクスピアのような、陶酔したような、天に語りかけるような、そんな長ったらしい台詞。滑舌もさることながら、「文章(文字)をしっかり読み取ったうえで誤読しない」という音読力のトレーニングを目的としている。

 

青字・・・男性の台詞

赤字・・・女性の台詞

※音読課題なので、性別問わず使用を推奨


1運命のふたり

「嗚呼、なんということだろうか。まさか、レオローナ、君が僕の目の前に現れるだなんて、よりにもよって同じ星の下で産声を上げ、同じ大樹の木陰に揺り籠を並べ、乳飲み子の頃にはあの偉大なアデライン乳母の乳を片方ずつ分け合った君が、まさか運命とも言うべき今日の日に僕の前に姿を現すなんて。運命の星というやつは、どうもどこまでもついて回るらしい。彼の星が金貸しでも始めたのなら、そら、これほど優秀な者は居まいよ。どこまでもぴったりつかず離れず追いかけてくる、あるいは魂を取り立てる死神か。この空に浮かぶ三日月はさしずめ彼の者の得物だ、そら見ろ、僕が見ていることに気がついて厚い雲が、すっかりそれを隠してしまった。あの雲の向こう側から、僕の喉笛を掻っ切ろらんと、その双眸を細めて息を殺しているに違いない。どうせなら、運命の星ごと隠してくれればよかったのに。嗚呼、違うな、君だ。君という形をとって、彼の死神は今、ここにいるのだ、あの日、恋をしたその顔(かんばせ)の内側に潜んでいるのだろう、僕の死神。退(の)け、退かぬのなら僕はこの剣を以て道を切り拓かねばならない、その途中に立ち塞がる君ごと」

 

可哀想なメレディス、王都のクレメンス大衆劇場の道化でさえ、たとえ滑稽愚かに踊り続けていても、その幕が下りれば正気を取り戻すというのに、貴方の幕はずっと上がったまま、観客もいないことにさえ気づかないまま、孤独に踊り続けている。私には、貴方こそあの日の木陰で日向に怯える乳飲み子に見えるわ。自分が道化だということに気がつかずに、運命の星などという操り手が糸を手繰って貴方の手足を動かしていると思い込みさえすれば、何も考えなくて済むものね。嗚呼、私が本当に貴方の言う死神だったのなら、今すぐにでもあの立ちこめる黒雲(くろくも)を晴らして、あの弓張り月で貴方に絡まる不可思議な不可視の糸をすべて切り捨ててあげられるというのに。枯れ枝のような自分の両の手が恨めしい。掴みたい時に何も掴めず、繋ぎ止めたい物は全て指の間をすり抜けていく、嫋(たお)やかにお淑やかにと父や殿方から生来掛けられ続けた呪いが、地を這い生き血を啜る蛭(ひる)のようにじわりと私を蝕み、成長した蝶がその糸に触れてしまったら最後、その肢体は絡め取られ、身動きはできず、貴方の言う運命の星という名の蜘蛛に食べられてしまうのでしょうね」


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