「おや、そんなに大きな荷物を担いで峠を越えなさるおつもりですか? 悪いことは言いません、おやめなさい。この峠にはよくないモノが出ます。山賊など怖くない、ですか? 随分と勇ましいお方だ。尚のことやめなさい。格好の餌食ですよ。足を止めませんか。はあ。やめろ、とワタシは三度申しましたよ?」
「おやめなさい」→「やめなさい」→「やめろ」と三段活用(?)で変わるフレーズをうまく使いたい台本。語り手の妖怪が、旅人の身を案じているのか? 「三度忠告すれば(旅人を)喰ってよい」というルールの下いるのか、という演じ分けも楽しい。「尚のこと〜」の前にアドリブを入れて色を出すのも美味。
「人の子の肝を舌に転がすと口も喉も潤うてたまらぬでな。腹を割(さ)いて手を入れて、温(ぬく)いうちに、抓(つま)んで取り出すのが好(よ)いわ好(よ)いわ。特に幼子の腹は薄うてな、爪の先でなぞるだけで簡単に割れるからの。ああ、赤子よ、そんなにおへそを出して。すやすやと、涎(よだれ)が垂れておるわ。
五感にに訴えるタイプのおどろしさを肝とした台本。肝を喰らうまでの過程を遡って説明する形になるため、後半にいくにつれ内容がショボくなる構成。最後の涎は、自分の涎(食欲)と赤子の涎(生理反応)のダブルミーニング。
「お恨み申します、お恨み申します。貴方さまがわたくしになさったことは、わたくし生涯忘れておりません。貴様の生涯は終わっただろうだなんて無体なことをおっしゃらないでください。同じ憂き目に遭わせて差し上げたくなります。晴らすつもりはないのですから。ただお恨み申し上げております」
逆に上がりもせずに、下がりもせずに、最後まで恨み節をぶつける台本。大きく環状を揺らさずに、機微を表現したい。「同じ憂き目に遭わせて〜」は、キャラクターの目的である「恨みを晴らすつもりはない(=殺さず恨み続ける)」という点に反して出てしまった言葉・感情であるため、うまく表現に使いたいところ。「貴方さま」が、「貴様」に対して怯えてるのか、はたまた強く出ているのかを詰めた上で臨みたい。
「なぜ殺した。ひぃい、悪かったよぅ。悪いと思っているなら今すぐ手を離せ。離したら左手で首を絞める気だろう。ああ、死ね。お願いだ、謝る謝るから。お前の言葉はもう聞きたくない。私の身体に取り憑くのは。左半分だけで十分だ。私の身体から出ていけぇ! 死ぬまで一緒だ!」
自分が殺した相手が、自身に取り憑いたという特殊シチュエーションによる一人二役。緩急を楽しむ台本。どこの段階で首が絞まっているのかをうまく表現に取り入れたい。最後の亡霊のセリフが、言葉だけをとるといい意味にもとれてしまう皮肉。