「これはこれは、村の者たちが失礼を働きました。何分、辺鄙なところにあります故、外交も少ないのですじゃ。見慣れぬよそ者に少々気が立ってしまったようです。お詫びと言ってはなんですが、今晩はウチに泊まっていかれてはいかがですか? と言いますか、この村には宿がありませぬから他にどうしようもありませんがの。はっはっは。ようこそ、巳六村(みろくむら)へ」
村長が来訪者を上に見ているか、下に見ているかで演技の色が変わる。歓迎しているか否かでも変わる。その最たる表現ポイントとして最後に「ようこそ」、村をどう思っているかとして「巳六村へ」と村名を配置している。
「まあまあ、いいじゃありませんの。子どもは元気に過ごすのが一番。子供の不始末は大人の役目。それで? 山から下りてきた猪は? 二頭? そう。夫婦かしら。猟友会の皆さんはもう出てるのね。それじゃ、山田さんのとこの白菜と、白川さんのとこはおネギ、三池さんはお米をお願いね。さあ、皆さん。男衆が手ぶらで帰ってくるわけがなし、今夜は猪鍋ですよ」
穏やか取り仕切る系主婦。子供たちに過剰な追求がいかないように周りをコントロール、各部下(主婦)たちの特色を把握しているリーダーシップがある。途中に猪が夫婦である妄想を挟むことで、やべー奴の感じを出している(夫婦を引き裂く前提なので)。ちなみに猪鍋を「いのししなべ」と読まないように注意。
「そうかえ、立川のところの倅(せがれ)が戻ってきよったか。十年の都会暮らしで、すっかりここのルール言うモンを忘れよったの。若いモンが、血気逸って、なんぞ制裁を入れた言う話は聞いとるが、まあええ。それもさして問題じゃあない。若さいうことよの。そういえば今年の月祭りの『オビトさん』が三人ばかり足らんと聞いとったが、まあ、皆で協力すれば大丈夫。なんも問題はない」
言わずもがな、『オビトさん』は生け贄のようなものであり、案にその3人を指定している台本。強者は10を伝えるのに10を語らないという点で強キャラ感を出している。演じようによっては「さっきまで擁護してたのに、急にハシゴ外すじゃん?!」というギャグのように使うこともできる。なーんも問題はない。
「あら、タカ坊、見ない間に大きくなったねえ。え? 『坊』はやめろ? やだねえ、私にとっちゃずっとかわいい坊よ。それで、何か相談事があるんでしょう? 昔から、困ったらすぐ唇を噛む癖が直ってないねえ。今は市長さんやってるんでしょう? ほら、しゃんとしなさい。うん、男前になった。それじゃお話を聞こうかね」
市長との長いつきあい、市長に頼られるという点で、只者ではないことを知らせている台本。落ち着いた女性の演技にどうぞ。