「夏祭り」(ナレーション原稿)

夏祭りを題材にしたナレーション原稿。お祭り騒ぎの最中としても、終わる祭りの寂寥感としても。

 


納涼祭

「夕涼み、虫の音と行き交う下駄の音。祭り囃子と人いきれの喧噪、太鼓の音に合わせて神輿の鈴が鳴りゃ、今日は八月五日。井鎚神社(いづちじんじゃ)の納涼祭。御祭神の鎚御神命(ツチミカミノミコト)は鍛冶と刃物の神様だ。不運・悪縁もスパッと断ち切り厄払い、本殿の鎚鋼(つちはがね)を叩いて、遠くに響くは納涼の音。遠き者は音に聞き、近き者は是非ともご覧じろ。鎚振り汗振り、暑さを忘れていざ、納涼」

狙い

ちょっと難しめの固有名詞がある難易度を少しあげた台本。冒頭から、少しずつ音量や熱量を上げつつ、最後は鈴の音で締める構成。その後は、縁日の客寄せのような語り口を意識した台本。(リズム感重視)しっとりと読むこともできる。尚、神社や御祭神はまったくの創作であり、フィクションである。


縁日

「くるくる、ふー、くるくる、ふー。回る回る風車。朱色の羽根と、あの子の着物とぼんやり灯る赤提灯。下駄の鼻緒に泳ぐ金魚はすいすいと、とりどり鮮やか並んだ林檎飴に、冷えたあの子の舌はイチゴ味。天狗の面で走る小僧を追いかければ、神社の巫女さん、袴にとんと、ぶつかった。お参りに垂れる赤紐シャンシャン鳴らしたあとは、家路を辿るに鳥居をくぐる。くるくる、くるくる、今日は夏祭り」

狙い

「赤色」をテーマに視覚に描写を振り切った台本。風車が回ることが、視界が回るメタファーとなっている。風車→着物→赤提灯(視界の上昇)から再度一気に下降して、下駄の鼻緒→金魚→林檎飴→舌(視界の上昇)とし、走る子供→ぶつかる袴(急移動と停止)と鈴を鳴らす→鳥居を出る(見上げる、と降りる)という構成。最後は「くぐる」からそのまま「くるくる」の韻に移ることもできる。


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